ドイツ解雇補償金計算(Abfindungsrechner)

ドイツの解雇補償金(Abfindung)目安額を、月給・勤続年数から解雇制限法(KSchG)第1a条の算定式で自動計算します。Fünftelregelung(五分方式)による所得税の軽減効果も概算できます。

解雇制限法(KSchG)の主な適用要件

経験則・§1a KSchGの補償金は、一般的な解雇制限法の保護が及ぶ雇用関係を主に想定しています。以下は代表的な適用要件です(個別の事情により異なる場合があります)。

待期期間(Wartezeit) 同一事業所での勤続が6か月を超えていること(KSchG第1条1項)
事業所規模 常時10人を超える労働者を雇用する事業所であること(KSchG第23条1項。2004年1月1日以降に採用された労働者が対象)
解雇通知の要件(§1a KSchG) 使用者が経営上の理由による解雇を通知する際、書面でこの算定式による補償金の請求権があることを明示していること
出訴期間の徒過 労働者が解雇通知の到達から3週間の出訴期間内に解雇無効訴訟(Kündigungsschutzklage)を提起しなかったこと(KSchG第4条)

上記いずれかを満たさない場合でも、解雇無効訴訟の和解金としてAbfindungが合意されるケースは実務上非常に多く、その場合の金額もこの経験則が目安として広く参照されます。

ドイツの解雇補償金(Abfindung)とは

ドイツには、日本の退職金制度のような「勤続すれば誰でも受け取れる」法定の解雇補償金請求権は原則として存在しません。多くの場合Abfindungは、使用者による解雇が無効だと労働者が争う「解雇無効訴訟(Kündigungsschutzklage)」を、労働裁判所(Arbeitsgericht)での和解によって終わらせる際の解決金としての性質を持ちます。とはいえ実務上は、勤続1年につき月給の0.5か月分という「経験則(Faustformel)」がほぼ業界標準として定着しており、多くの和解交渉・退職合意書(Aufhebungsvertrag)の出発点として使われています。

この経験則は、解雇制限法(KSchG)第1a条が定める唯一の法定補償金請求権とも算定式が一致します。使用者が経営上の理由(betriebsbedingte Kündigung)による解雇を通知する際、書面でこの条文に基づく補償金の請求権を明示すれば、労働者が出訴期間(3週間)内に訴えを起こさなかった場合に限り、法律上確実に補償金を受け取れます。このツールは月給・勤続期間を入力するだけで、この算定式による目安額と、退職金特有の税制優遇(Fünftelregelung)による所得税の軽減効果を試算します。

この計算に使っている基準

税率・保険料率などの法定の値は、次の公的機関が公表しているものを使用しています。制度改正により変わることがあるため、重要な判断をされる際は一次情報もあわせてご確認ください。

Abfindung計算の使い方

  1. 月額総支給額を入力する 税・社会保険料控除前の月給(グロス)を入力します。
  2. 勤続開始日と退職日を入力する 退職日は雇用契約が実際に終了する日を指定します。6か月を超える端数は自動的に1年に切り上げられます。
  3. その年の他の課税所得を入力する Abfindung以外の、退職した年の給与等の課税所得の見込み額を入力すると、Fünftelregelungによる節税効果も試算できます。
  4. 結果を確認する Abfindung目安額、勤続年数の内訳、Fünftelregelung適用時と通常課税の場合の追加納税額の差が表示されます。

使いこなすためのヒント

  • このツールが示すのは経験則による目安額です。実際のAbfindungの金額は、解雇の有効性・会社の財務状況・労働者の年齢や再就職の見込み・弁護士を通じた交渉力によって、経験則の金額を上回ることも下回ることもあります。
  • Fünftelregelungは、退職した年の他の所得が少ないほど節税効果が大きくなる傾向があります。年の途中で退職し、その後の所得が無い場合は特に有利になりやすい制度です。
  • 経営上の理由以外(労働者側の行動・人的理由)による解雇の場合、§1a KSchGの法定補償金請求権は発生しませんが、和解交渉の目安としては同じ経験則が使われることが一般的です。
  • 雇用主が10人以下の小規模事業所(Kleinbetrieb)や、勤続6か月未満の場合は解雇制限法そのものの適用対象外となるため、この経験則が交渉でどこまで通用するかは個別の状況によります。
  • 労働組合や事業所委員会(Betriebsrat)がある企業では、社会計画(Sozialplan)によって経験則を上回る補償金額が定められている場合があります。

こんなときに使えます

会社から提示されたAbfindungの金額が妥当か確認したい

業界標準の経験則による目安額をこのツールで試算し、実際に提示された金額と比較する材料にできます。

退職合意書(Aufhebungsvertrag)の交渉前に相場観を持ちたい

和解交渉やAufhebungsvertragの締結前に、経験則に基づく出発点の金額を把握しておくことで、交渉を有利に進めやすくなります。

Abfindungにかかる税負担を事前に把握したい

Fünftelregelungを使った場合と使わなかった場合の追加納税額の差を試算し、手取り見込み額のイメージをつかめます。

§1a KSchGに基づく法定補償金の対象かどうかを確認したい

解雇通知の内容・出訴期間の扱いなど、§1a KSchGの適用要件を確認しながら、法律上確実に受け取れる金額かどうかを整理できます。

用語集

Abfindung(アプフィンドゥング)
ドイツにおける解雇時の補償金・和解金の総称です。日本の退職金とは異なり、原則として法律上一律に請求できる権利ではありません。
経験則(Faustformel)
勤続1年につき月給の0.5か月分というAbfindung算定の業界標準です。§1a KSchGの法定算定式と同一の式ですが、法的拘束力のない実務慣行として広く定着しています。
解雇制限法第1a条(§1a KSchG)
使用者が経営上の理由による解雇を通知する際に補償金請求権を明示し、労働者が出訴期間を徒過した場合に限り、勤続1年につき月給0.5か月分の補償金を法律上保証する条文です。
解雇無効訴訟(Kündigungsschutzklage)
労働者が解雇の無効を主張して労働裁判所に提起する訴訟です。解雇通知の到達から3週間以内に提起する必要があり(KSchG第4条)、多くの場合はAbfindungを支払う和解で終結します。
Fünftelregelung(フュンフテルレーゲルング)
Abfindungのような一時的にまとまった所得を、5年分に分割したとみなして所得税の累進税率の影響を緩和する制度(§34 EStG)です。

よくある質問

いいえ。ドイツには日本のような一般的な法定の退職金・解雇補償金請求権はありません。§1a KSchGが定める限定的な条件を満たす場合を除き、Abfindungは解雇無効訴訟の和解金として労使間の交渉で決まることがほとんどです。

それ自体には法的拘束力はありませんが、§1a KSchGが定める唯一の法定補償金の算定式と一致しており、多くの労働裁判所の実務・和解交渉で相場観として広く参照されています。

Abfindungのようにその年だけ一時的に増えた所得を、5年間に分けて受け取ったとみなして所得税の累進課税の影響を緩和する制度(§34 EStG)です。通常の給与としてそのまま合算するより税負担が軽くなる場合があります。

解雇制限法第1a条2項に基づき、6か月を超える端数は1年に切り上げます。例えば勤続4年7か月であれば5年として計算します。

解雇制限法(KSchG)は原則として常時10人を超える労働者を雇用する事業所にのみ適用されるため、それ以下の小規模事業所(Kleinbetrieb)では§1a KSchGの法定補償金は発生しません。ただし和解交渉の目安としてこの経験則が参照されることは実務上あります。
ツールくん

余談ですが ― なぜドイツには「当たり前の退職金」が無いのか

日本で会社を辞めるとき、多くの人は「退職金」がある程度当然に支払われるものだと考えます。ところがドイツで同じ状況になると、多くの人がまず戸惑うのが「Abfindungは義務ではない」という事実です。ドイツの労働法は、雇用の安定そのものを守ることに主眼を置いており、解雇制限法(KSchG)は「正当な理由のない解雇を無効にする」仕組みを整えることに重きを置いています。つまり法律上の建前は「お金で解決する」ことではなく「そもそも不当な解雇をさせない」ことなのです。

しかし現実の労使関係では、無効になった解雇を撤回して同じ職場に戻ることを望まない労働者も多く、使用者側も解雇無効の判決が確定するまで法廷で争うコストとリスクを避けたいと考えます。そこで生まれたのが、労働裁判所での和解というかたちでAbfindungを支払い、雇用関係を円満に終了させるという実務慣行です。§1a KSchGはこうした実務の積み重ねを一部制度化したもので、使用者があらかじめ「補償金を払うので訴えないでほしい」という選択肢を労働者に示せるようにしています。

勤続1年につき月給0.5か月分という数字自体に絶対的な根拠があるわけではありませんが、長年の労働裁判の実務の中で「これくらいが妥当な落としどころ」として定着してきた相場観です。興味深いのは、この経験則が業界・地域を問わずドイツ全土でほぼ共通の「共通言語」として機能している点で、労働者側の弁護士も使用者側の人事担当者も、まずこの数字を出発点に交渉を始めることが少なくありません。